健診の封筒を開けて、数字と矢印が並んだ一枚を前に手が止まる。項目名は略号で、「要経過観察」とだけ書かれている。

ここでは、その一枚を上から順に読み下せるようにします。血算、肝機能、腎機能、脂質、HbA1cが何を映すのか、待ってよい数値と急ぐべき数値の分け方までを見ていきます。

基準範囲は「正常値」ではない

結果票の基準範囲は、健康な人を測定してその中央の95%が収まる区間です。定義上、健康な人の20人に1人はどこかの項目で範囲の外に出ます。矢印が1つ付いただけで病気が確定しないのは、このためです。

逆に、範囲の中なら安心とも限りません。ヘモグロビンが3年前14.5、前回13.6、今回12.8なら、どれも範囲内ですが体では何かが進んでいます。健診項目の位置づけは厚生労働省の特定健診・特定保健指導の資料にまとまっています。

ヘモグロビン、ヘマトクリット、MCVが基準範囲を下回り、血小板数とALTとHbA1cが上回っている健診パネルの実例を示した図
実例。どの項目も劇的ではありませんが、ヘモグロビン・ヘマトクリット・MCVが下に、血小板数が上に振れている組み合わせが、鉄欠乏という一つの筋書きを描いています。

なぜ施設ごとに基準範囲が違うのか

同じALTでも、ある病院では10〜42、別の健診センターでは5〜40と印字されます。測定機器と試薬、測定法、基準範囲を決めた健常者集団が違うからです。単位が異なる項目もあります。

日本では共用基準範囲が普及して主要項目の差は縮まりましたが、全施設が採用しているわけではありません。比べる相手は手元の結果票の範囲です。検査項目別の基準値を一覧にした早見表と突き合わせれば、施設差の幅が実感できます。

血算(CBC)を上から読む

赤血球数(RBC)は個数しか示さず、単独では役に立ちません。実際に動かすのはヘモグロビン(Hb)で、低ければ貧血と定義されます。ただし貧血の有無しか教えないため、原因はその下のMCVから読みます。

ヘマトクリット(Ht)は赤血球の体積割合で、ヘモグロビンのおよそ3倍で動きます。この関係が大きく崩れているときは、病気より採血手技や検体の問題を先に疑います。

血算のおもな項目と共用基準範囲の例。施設ごとの範囲は結果票の記載に従ってください。
項目男性女性単位何を示すか
白血球数(WBC)3.3〜8.63.3〜8.6109/L感染・炎症・ストレスの指標
赤血球数(RBC)4.35〜5.553.86〜4.921012/L個数のみ。Hbと併せて読む
ヘモグロビン(Hb)13.7〜16.811.6〜14.8g/dL貧血・多血の判定
ヘマトクリット(Ht)40.7〜50.135.1〜44.4%赤血球の体積割合
MCV83.6〜98.283.6〜98.2fL赤血球の大きさ。貧血の型を決める
MCH27.5〜33.227.5〜33.2pg1個あたりのHb量。MCVに連動
MCHC31.7〜35.331.7〜35.3%Hb濃度。高値は検体要因が多い
血小板数(PLT)158〜348158〜348109/L止血能。出血傾向の目安

MCV・MCH・MCHCで貧血の型を分ける

MCVは赤血球1個の平均的な大きさで、ここで貧血は三つに分かれます。低い小球性なら鉄欠乏かサラセミア形質、高い大球性ならビタミンB12や葉酸の不足、飲酒、甲状腺機能低下症、肝疾患。正球性なら出血、慢性疾患、腎性貧血です。

小球性貧血の三つの原因である鉄欠乏・サラセミア形質・慢性疾患を、MCV、赤血球数、フェリチン、CRP、家族歴、次の検査で比較した表
MCVが低いというだけでは鉄剤の適応になりません。赤血球数が保たれていて家族歴があるならサラセミア形質を、CRPが高いなら慢性疾患を先に考えます。

血小板数(PLT)

低値ではまず採血管内で固まる偽性血小板減少を確認します。本当に低い場合、10万未満で原因検索、5万未満で出血リスクの評価、2万未満は緊急です。高値は健診では鉄欠乏と炎症が二大原因です。

白血球数と白血球分画

総数だけでは足りず、内訳を示す分画のほうが多くを語ります。好中球は細菌感染、外傷、ステロイド、喫煙、強いストレスで上がります。リンパ球はウイルス感染、好酸球はアレルギー、単球は慢性の炎症で増えます。

発熱中に測った白血球数を、平常時の値として扱わないでください。地域の流行状況は国立感染症研究所の感染症発生動向調査で確かめられます。

好中球55%、リンパ球34%、単球6%、好酸球4%、好塩基球1%という典型的な白血球分画の割合を示したドーナツ図
成人の白血球分画のおおよその内訳。割合だけでなく実数(総数×割合)で見ると、総数が正常でも好中球が減っている状態を見落とさずに済みます。

肝機能:AST(GOT)・ALT(GPT)・γ-GTP

ASTとALTは肝細胞の中の酵素で、細胞が傷つくと血中に漏れます。ALTはほぼ肝臓に限られ、ASTは筋肉にも含まれるため、両者の比が意味を持ちます。健診でALT優位の軽度上昇なら最も多い背景は脂肪肝、AST優位なら飲酒や筋肉の損傷、進行した肝線維化を考えます。

γ-GTPは飲酒の指標として知られますが、薬剤、脂肪肝、胆汁の滞りでも上がります。ALPも高ければ胆道系を、ALTだけが高ければ肝細胞側を先に評価します。禁酒して4週間で下がり始めるかも手がかりです。

ALT優位の上昇、AST優位の上昇、γ-GTP単独高値、ヘモグロビン低値、eGFR60未満、血小板高値の六つについて、最初に考えるべき原因を並べたタイル図
高値・低値それぞれについて、健診の場面で最初に考える説明を並べたものです。診断名ではなく、次に確認する項目を決めるための出発点として使ってください。

腎機能:クレアチニンとeGFR

クレアチニンは筋肉で作られ腎臓から捨てられる老廃物で、筋肉量の多い人は高く、高齢でやせた人は腎機能が落ちていても低めに出ます。そこでクレアチニン・年齢・性別から計算するのがeGFRです。

eGFRが60未満なら腎機能の低下を疑いますが、1回の値では判断できません。脱水、激しい運動、大量の肉食、クレアチンでも動きます。慢性腎臓病と呼ぶには、eGFR60未満または尿蛋白などの所見が3か月以上続くことが条件です。まず3か月後の再検査と尿検査を。

脂質とHbA1c

LDLコレステロールは動脈硬化のリスクを示し、HDLは高いほうが望ましい項目です。中性脂肪は食事の影響を最も強く受けるため、脂質を測る日は10〜12時間の絶食が原則です。

HbA1cはヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合で、過去1〜2か月の平均血糖を映します。前日の食事では動かない代わりに、改善もゆっくりです。食事と検査値の関係は国立健康・栄養研究所の栄養と健康の情報が参考になります。

HbA1cが12か月かけて7.4%から6.0%まで段階的に下がり、基準範囲の帯に戻っていく推移を示した折れ線グラフ
HbA1cは赤血球の寿命に縛られるため、3か月ごとにしか意味のある比較ができません。1か月後の再検査で動いていないことは、取り組みが無駄だったことを意味しません。
肝・腎・脂質・血糖のおもな項目と共用基準範囲の例。治療目標値は基準範囲とは別に医師が設定します。
項目男性女性単位高値で考えること
AST(GOT)13〜3013〜30U/L飲酒、筋肉損傷、肝障害
ALT(GPT)10〜427〜23U/L脂肪肝、薬剤性肝障害、肝炎
γ-GTP13〜649〜32U/L飲酒、薬剤、胆汁うっ滞
クレアチニン0.65〜1.070.46〜0.79mg/dL脱水、腎機能低下、筋肉量
eGFR60以上mL/分/1.73m260未満は3か月後に再検査
LDLコレステロール65〜16365〜163mg/dL動脈硬化のリスク評価
HDLコレステロール38〜9048〜103mg/dL低値のほうが問題になる
中性脂肪(TG)40〜23430〜117mg/dL食後採血、飲酒、糖質過多
HbA1c4.9〜6.0%過去1〜2か月の平均血糖

すぐに受診すべき数値

ほとんどの異常値は再検査で足ります。ただし、待つべきでない数値があります。

逆に、1項目だけがわずかに範囲外で、症状がなく前回と大きく変わっていないなら、多くは3か月後の再検査で十分です。判断を分けるのは症状の有無と変化の速さです。

単位と印字された基準範囲の確認から、組み合わせで読む、前回と並べる、再検査の目的を確認する、結果票の原本を持参するまでの五つの手順を並べた図
異常値を指摘されてから受診までの手順。順番を守るだけで、診察室で聞くべきことがはっきりします。

再検査の前に整えておくこと

前日の飲酒と激しい運動を避け、採血の時間帯をそろえ、同じ検査機関を使ってください。鉄剤は服用後24〜48時間、血清鉄を高く見せます。フェリチンは炎症でも上がるためCRPと読みます。

再検査前に行うこととして絶食や水分摂取や服薬リストの持参を、避けることとして飲酒や激しい運動や発熱中の検査を並べたチェックリスト
再検査の前に守ると比較できる値になる項目と、値を動かしてしまう行動。特に脂質と血糖では、絶食の有無が判断を左右します。

BloodAI Analyticsでできること

ここまでの読み方を手元の結果票に当てはめるのがBloodAI Analyticsの解析です。項目名、測定値、単位に加えてその施設の基準範囲を読み取り、関連する項目をまとめて日本語で解説します。

できないことも書きます。診断はしません。診断は診察や症状、追加検査を総合して医師が行うものです。本サービスが担うのは、診察室に入る前に何を聞けばよいかを整理するところまでです。

気になる項目を自分でも確かめたいときは、項目ごとの解説をたどれるKan Testiの検査値ガイドを併読し、説明が食い違わないかを見比べてください。

ほかの検査項目は日本語のガイド一覧にまとめています。結果票を封筒に戻す前に、気になった行がどの筋書きの一部かを確かめておきましょう。

よくある質問

いいえ。基準範囲は健康な人を測定し、その中央の95%が収まる区間として決めたものです。定義上、健康な人でも20人に1人はどこかの項目で範囲外になります。1項目だけがわずかに外れていて症状もない場合、多くは再検査で範囲内に戻ります。重要なのは、外れ方の大きさ、外れている項目の組み合わせ、そして前回からの変化です。

測定機器と試薬が違い、測定法が違い、基準範囲を決めるときに集めた健常者集団が違うからです。日本では共用基準範囲の普及によって主要項目の差は縮まりましたが、すべての施設が採用しているわけではなく、単位が異なることもあります。比べるべき相手は、あなたの結果票に印字された範囲です。

基準範囲の下限すれすれで、しかも前回より下がっている場合、体の中では鉄が減り始めていることがあります。MCVが下がり、RDWが上がり、フェリチンが低ければ、ヘモグロビンが範囲内でも鉄欠乏として扱います。ヘモグロビンは最後に下がる指標だと考えてください。

健診の場面でALTがASTより高い軽度上昇がみられるとき、最も多い背景は脂肪肝です。次いで、薬剤やサプリメント、飲酒、まれにウイルス性肝炎が挙がります。ALTが基準上限の2倍以内で他の項目が正常なら、多くは生活習慣の見直しと3か月後の再検査で経過をみます。

飲酒は代表的な原因ですが唯一ではありません。抗てんかん薬、一部の抗菌薬、脂肪肝、胆汁の流れの滞り、甲状腺機能の異常でも上がります。ALPも一緒に高ければ胆道系を、ALTだけが一緒に高ければ肝細胞側を先に考えます。禁酒して4週間ほどで下がり始めるかどうかも手がかりになります。

1回の測定では判断できません。eGFRは血清クレアチニン、年齢、性別から計算した推算値で、脱水、激しい運動、筋肉量、直前の肉食、クレアチンのサプリメントなどで動きます。慢性腎臓病と呼ぶには、eGFR60未満または尿蛋白などの腎障害の所見が3か月以上続いていることが必要です。まず3か月後の再検査と尿検査を受けてください。

項目によります。血算、肝機能、腎機能、HbA1cは食事の影響をほとんど受けません。一方、中性脂肪と血糖は食後に大きく上がるため、脂質や空腹時血糖を測るときは10〜12時間の絶食が指示されます。水は飲んで構いません。脱水はヘモグロビンやヘマトクリットを見かけ上高くします。

症状のない成人であれば年1回の健診が基本です。貧血の経過をみている、肝機能や腎機能に指摘がある、糖尿病や脂質異常症の治療中といった場合は、主治医が3か月から6か月ごとの間隔を指示します。自己判断で間隔を延ばすより、次回いつ測るかをその場で決めておくほうが確実です。

出典と参考資料

検査結果を解析する

検査結果をアップロードすると、数分でわかりやすい解説が届きます。

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本記事は健康情報であり、医学的診断ではありません。検査結果は必ず医師にご相談ください。